今回ご紹介するのは創業40年以上の歴史を誇り、ビルや工場、住宅の配管工事など幅広い領域のスペシャリスト集団を抱える大分市の建設会社「日伸テクノ株式会社」です。Uターン、Iターン就職者の住宅支援や資格取得支援など、若手や他業界からの転職組を含め社員の生活と成長を応援する取り組みに力を入れています。「建設会社のイメージを変えたい」という土居一成社長に、従業員を大切にする会社経営の考え方を聞きました。
ピラミッドではなく「円」のチームに
――どのような組織作りを心掛けていますか。
「私は日ごろから、メンバーが自分の意見を周囲に伝えやすい環境をいかに作るかについて考えています。いわゆる『ピラミッド型』の組織では、社長が最上段から指示を下し、従業員たちが文句を差しはさむことなく従います。もちろんこうした指揮系統の確かさは大切ですが、上下関係があまりに厳しすぎると、若手を含め1人ひとりが抱いているアイデアを会社全体のために活かすことができません」
「目指しているのはピラミッドではなく、『円』の形をした会社作りです。車座のようにみんなが私を取り囲み、意見を出し合って、それぞれのよい考えを活かして成長していくチームこそが理想です。実際に今の職場では、従業員どうしが助け合って各自の職務をまっとうした上で、互いにあまり気を遣わず、和気あいあいとコミュニケーションを取るというメリハリが生まれています。だからこそ、若手がのびのびと仕事に打ち込める環境になっているのではないでしょうか」
――建設業界には縦社会のイメージがありますが、こちらは雰囲気がすこし違うようですね。
「会社が生まれ変わったきっかけは、バブルの崩壊でした。当時、今と違ってこの会社も完全な『縦社会』でした。工事案件の急減により、職場の重苦しい雰囲気に耐えかね、優秀な若い人たちがつぎつぎに離職していきました。創業者である父の姿を見ながらこの先、一体どうなるのかと不安を抱いていました」
「そんなとき、縁あって熊本県で工場新設を手伝うことになりました。不思議なことに、そこでの仕事は多忙を極めていたにもかかわらず、なぜか楽しくて、私が抱いていた建設業に対するイメージがガラリと変わりました。偶然にもその直後、父の後を継ぐことが決まり、若い人が楽しんで仕事に打ち込める会社を作ろうと決心したのです」
「オヤジ」として社員の背中を押す
――社員のモチベーションを高める工夫について教えて下さい。
「従業員が仕事を楽しめる環境を作るためには、まず、何を目標にして頑張ればよいかを明確にすることが大切だと考えています。我が社では毎月昇給会議を開き、頑張りや成長が報われるチャンスを定期的に設けています。入社後、初めての仕事を身に着けるのに苦労することもあるでしょうが、仕事で自立できるようになるまでは、途中で諦めることなくなんとか頑張ってほしい――そんな想いで、やる気をもって自己研鑽に励む社員たちの背中を押すようにしています」
「工事で必要な各種資格の取得を支援する制度も設けています。もちろん社長という立場でいえば、ここで得たノウハウや技術をぜひとも会社のために使ってほしい。でも、せめて地元大分で、自分の力で食べていく力を身につけてくれれば、従業員という子供たちの将来を想う『オヤジ』としては本望です」
大分の未来を支える会社へ
――今、新たな分野に力を入れていると聞きました。
「現在はビルと工場の配管工事がメインですが、時代の変化にあわせて、会社として新しい挑戦を始めています。大分が、そしてこの日本が転換期にあるからです」
「カギとなるのは、深刻化する水道などのインフラの老朽化です。父が事業を始めた1970年代、大分にはまだ水道の開通していない地域が多く残っていました。しばらくは水道工事に力を入れていましたが、その後、バブル経済でビル工事が相次ぎ、水道工事の受注は下火になりました。歳月が経ち、今、配管等の老朽化によって水道改修の重要性が高まっています。将来的な更なるニーズの高まりを見据え、我が社でも水道部門の再強化を進めています」
――水道は会社にとって原点でもあり、未来への道筋でもあるということですね。
「人が住んでいる限り、蛇口をひねると水がでるという当たり前の生活を支えるインフラのメンテナンスが必要になります。地元の暮らしを支える人材と技術は今後、ますます強く求められることになるでしょう」
「また、この水道部門では若手に仕事を覚えてもらいながら、できるだけ自分自身でスケジュールを組み立ててもらうようにしています。生産性を向上しつつ、いかに効率的に休みを取り、生活を充実させていくか。難しい課題ですが、新しい働き方のモデルを若手自身に作り上げてもらうことが、建設業に再び活気をもたらすことにつながると考えています」
1人ひとりが経営者
――裁量を与えることで、成長の機会を増やしているのですね。
「私が若手のころは上司から『ご飯を食べにおいでよ』と誘われると嬉しかったものですが、今の世代は感覚が変わってきています。私がある程度の道筋はつけた上で、若い人たちが、自分たちにとって一番しっくりくるチームの在り方を見つけてくれればと思っています」
「私自身は父の後を継いで社長に就任しましたが、これからは血縁に関係なく、社員の中から次の社長が出てきてほしいと願っています。1人ひとりが経営者の気持ちで積極的に意見を出し合う、そんな組織を目指しているからです。力を合わせ、足りない部分をお互いに補いあう、そんなチーム作りに参加してくれる積極性と協調性のある人なら、建設業の未経験者であっても大歓迎ですね」
従業員インタビュー 工務課・武石拓郎さん(26歳、九重町出身、2020年中途入社)
「大学を卒業してしばらくは、滋賀にある半導体製造設備工場で勤めていました。一度地元を離れたのは、高校時代から打ち込んでいたホッケーの練習を、滋賀にあるクラブチームに所属して継続するためでした。いつかは故郷に帰って、大分の企業で働きたいと考えていたところ、大分出身のアスリートと地域企業をマッチングする県の支援事業『アスナビ・チーム大分プロジェクト』が縁となり、日伸テクノへの就職が決まりました」
「現在担当している水道部門では、市役所や警察署に提出する書類の準備など、覚えなければいけないことが山ほどありますが、困った時には声をかけ、心配し、教えてくれる職場の優しい人たちに助けられています。また、経験豊富な下請けさんとのやりとりも、非常に貴重な学びの機会になっています」
「週3日ほどは業務終了後、職場近くで練習に打ち込み、休日には地元小学校でホッケーの指導にあたることもあります。吸収力の高い子どもたちの上達を見ていると、仕事の疲れを忘れてしまいます。いつか職場でもホッケーと同じように、後輩に教えられるまで成長できれば――そんな想いを胸に日々、先輩方にアドバイスをいただきながら業務に力を注いでいます。
■会社プロフィール
会社名:日伸テクノ株式会社
本社所在地:〒870-1152大分市上宗方227
創業:1975年
従業員数:約20名
事業概要:給排水衛生設備工事の設計施工、空気調和設備工事の設計施工、水道施設工事、機械器具設置工事、消防設備工事
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